あまりなじみのない仕事かもしれませんね。パタンナーとは、服やランジェリーメインキングにおける設計士。デザイナーから上がってきたデザイン画を元に、バストやボディラインの形状の変化などを想像・想定しながら、平面から立体を作り上げていきます。以前は紙を広げ、鉛筆でラインを引いてハサミで型紙を切り出すという手作業でしたが、現在はCADというソフトを使い、パソコン画面上で作業したパターンを切り取っています。
アウター(服)は実際の体の寸法よりも少し余裕を持たせることで、快適さや動きやすさを叶えます。オーバーサイズのトップスなどは、ボディラインを意識せず、デザインを優先したパターンも多くありますね。でもランジェリーは、肌に直接身につけるものです。ぴたっとフィットさせるために、アウターとは逆に少し小さくつくり、伸縮性を利用して肌に密着させます。少しの寸法の違いやフィット感の悪さもデリケートに感じやすいのは、そのためです。とくにバストは、サイズも形もやわらかさも、本当に人それぞれ。支える、寄せるなどブラジャーメイキングにはより多くの機能が必要になるため、あの小ささにも関わらず、シンプルなパターンでも18ピース使用しています。
デザイナーの鈴木もお話させていただきましたが、トリンプでは時代に先駆けて、また時代ごとの女性たちのニーズに合った着けごこちや機能を追求してきました。その中でロングセラーを続けている「天使のブラ」が実現してきた細かいこだわりや機能は、挙げれば本当にきりがないほど。トリンプのブラジャーは、パターンの一つひとつにオリジナリティが詰まっているんです。
例えば、脇から寄せてサイドをすっきり見せる「エンジェルスリムシート」は「天使のブラスリムライン」の特徴的なパーツですが、今ではトリンプの他のシリーズでも使われるほど支持を集めるようになりました。また同じように見えても、パターンのアップデートにも常に取り組んでいます。その結果、バストによりフィットするようにとピース数も増え、サイズによって前後しますが、「天使のブラスリムライン 極上ライト」のパターンは29ピースにもなりました。
そういう意味では、この春デビューした「癒しのブラ」は、コロナ禍を経た今の時代の女性に向けた、トリンプのパターンのこだわりが詰まったシリーズだと言えます。完成してみると、パターンはシンプルなブラジャーの倍の36ピース! トレンドも価値観も目まぐるしく変化していく世の中、今お客様が求めているものをお届けするために、商品開発にはスピード感も求められます。「癒しのブラ」開発も、限られた時間の中で、それはもう数えきれないほどの試行錯誤を繰り返して完成にたどり着きました。
「ワイヤーブラとノンワイヤーの間のような、まだ世の中にない新しいブラジャーをつくりたい」とデザイナーから相談された時点ですでに、これは難しい仕事になりそうだと(笑)。近年のトレンドもそうですが、コロナ禍を経て、人々がより快適さを求めるようになっています。そんな中、ブラジャーではノンワイヤーが人気を集めていますが、トリンプのお客様はワイヤーブラ派の方も多数。「きちんと感がありつつ、やわらかい着けごこちも叶えるワイヤーブラ」、そんなコンセプトで開発が始まったのが「癒しのブラ」です。
「恋するブラ」のようにストラップやカップの伸びがいいブラジャーはありましたが、ブラ全体に伸縮性をもたせるとなると、バストの横流れを防ぐためには、どんな素材で、どんなピースが最適なのかなど……相反する要素を組み入れるのはとても難易度が高く、サンプル作成は数えきれないくらい繰り返しましたね。その中で生まれたのが、「癒しのブラ」ならではの「ワイドストラップカップ」です。通常は縫製して組み立てるストラップと下カップの2つのピースを一体化させることで、バストを手のひらで包んで持ち上げるような、「癒し」ならではの着けごこちを実現することができました。
作業中は大変なことももちろん多かったですが、私自身は難しい課題があればあるほど燃えるタイプ。完成してみれば、新しいものを誕生させたという達成感の方が大きいです。これからお客様からどんなお声が聞けるのか、楽しみですね。
パタンナーとしての責任はもちろん着けごこちの快適さを叶えることではありますが、ブラジャーは、フィット感とデザインの好みが揃ってはじめて、お客様に選んでいただけるもの。デザイナーが描く世界観を壊さずにパターン化すること、もっと言えば、デザインをさらに魅力的に見せるパターンを常に描いて作業しています。
最初にお話をしたとおり、肌に直接触れるランジェリーの着けごこちは繊細なもので、とても緻密な設計が必要です。パタンナーはランジェリーメイキングの要であり、ミリ単位よりもさらに微細な調整が行われることもしばしばですが、洋裁や刺しゅうなど、私は子どもの頃からとにかく細かい作業が大好き。常々、ランジェリーパタンナーは天職だと思っています。
ランジェリーの魅力を知っていただく手助けになりたいと願いながら、長年、パタンナーとして仕事をしてきました。服の下に隠れてしまうランジェリーは、他人には見えないものです。だからこそ、その時々の気持ちの変化でカラーの好みが変わったり、体型の変化でデザインの好みが変わったとしても、自分に正直に楽しめるものだと思うんです。女性たちのどんな気持ちにも寄り添えるようなさまざまな商品を、これからももっともっと新しく開発していきたいですね。